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エッジAIが社会課題を解決する方法:Idein CEOが事例や取り組みを徹底解説

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はじめに

生成AIの急速な進化やAIが搭載されたPC(AI PC)、AIスマホの登場により、エッジAIがあらためて注目を集めています。市場の関心は高まる一方で、「エッジAIとは何か」「具体的にどのような課題を解決できるのか」など、実際のところはよく分からないという方もいらっしゃるかと思います。

本記事では、エッジAIの基本から最新の事例、そして社会実装における課題までを、IdeinのCEO・中村晃一が詳しく解説し、エッジAIやテクノロジーにどのように向き合うべきか、そこにはどんな可能性があるかを考察します。

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目次

  1. エッジAI市場の概況(世界・日本)
  2. なぜ今?エッジAIが注目される背景
  3. エッジAIにまつわる誤解
  4. エッジAIのユースケース
  5. 日本の国際競争力強化に不可欠なエッジAI、そのインフラを「Actcast」が担う
  6. お問い合わせ先

エッジAI市場の概況(世界・日本)

―エッジAIとは

エッジAIとは、エッジコンピューティングの一種で、末端のデバイスやその付近に配置されたサーバーなど、ネットワークの端に近い箇所(エッジ)でAI処理を行い、クラウドとの通信を最小限に抑える仕組みです。これと対比されるのがクラウドAIで、解析したデータをアップロードし、クラウドで処理する方式です。クラウド上で解析するためには映像や音声などの大容量の生データをクラウドへアップロードする必要があります。

エッジAIではデバイス上などでできる処理を済ませた上で、目的のデータだけをクラウドに送ります。デバイス上で個人情報に必要な処理をしてからクラウドへデータを送信するため、プライバシーを保護できる利点のほかに、クラウドへ送信するデータの量が少ないため、クラウド側の負担が減り、通信費用やサーバーなどのコスト削減ができるといった、複数のメリットが得られます

このようにエッジAIは、クラウドAIの抱える課題を解決する手段として期待されており、エッジAIの市場は国内外で急拡大しています。

―市場規模と成長予測

エッジAIを含むAI関連の市場は、生成AIブームを背景に急速に成長しています。総務省が発表した令和6年度の情報通信白書によると、2024年には世界のエッジコンピューティングの市場規模(支出額)は2,320億ドルに達し、2027年には3,500億ドルまで拡大すると予測されています。

edge-computing-market-ww総務省 令和6年度情報通信白書(P.161)の図を引用

また、日本におけるエッジコンピューティングの市場規模(支出額)は、2024年に1.6兆円、2027年には2.3兆円に拡大すると推計されています。生成AIの急速な普及による電力負担や環境負荷といった課題の解決策としても、エッジAI市場は今後も国内外で大きな成長を遂げると考えられます。

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総務省 令和6年度情報通信白書(P.162)の図を引用

―当社Ideinの取り組み

Ideinは2015年の創業以来、エッジAIに取り組んできました。AIブームの到来前から、将来的にAIが社会に広く実装されることで、プライバシーやコスト、大規模運用などの課題が生じることを予見し、これらの課題を解決するために、エッジAIプラットフォーム「Actcast」の開発に着手しました。

「Actcast」はエッジAIの社会実装における課題解決に特化したプラットフォームです。多くの企業がAI技術自体に注目する中、IdeinはAIの実装フェーズにおいて共通かつ重要な課題である、「プライバシー」「コスト」「大規模運用」という具体的な問題に取り組んできました。その結果、AIを活用する多くの企業が直面する課題を「Actcast」を通じて解決できる、独自のポジションを築いています。

Ideinの強みは、中立的な立場で多くの企業と連携し、Actcastを通じて多様なエッジAIソリューションを提供できる点にあります。特定の企業が自社製品に特化したプラットフォームを提供するのとは異なり、Actcastは多くの企業が利用しやすい環境を整備しています。これにより、経済合理性の高いエコシステムが形成され、業界全体の発展に貢献することを目指しています。

actcast-benefitエッジAIプラットフォーム「Actcast」の強み

なぜ今?エッジAIが注目される背景

昨今、生成AIの盛り上がりとともに「エッジAI」という言葉を耳にする機会が増えてきました。この背景には生成AIが搭載され、AIの処理を高速化した「AI PC」 の登場があります。パソコン内のAIとクラウド上のAIの双方を利用できることで、新たなユーザー体験を創造するものと期待されています。

AI PCに使われている技術はエッジAI(エッジコンピューティング)の一種です。従来から成長を続けていたエッジAI市場に生成AIブームが加わり、その重要度はさらに増しています。AI PC という注目度の高い製品カテゴリーの登場により、市場が拡大し、技術も発展していくでしょう。

生成AIを搭載したデバイス型のエッジAIは、個人データを学習するパーソナルアシスタントとしての方向に進化していくことが予想されます。一方で、産業のDXに関わるエッジAIは、プライバシーリスクの低減や通信コストの削減、低遅延処理の実現といった導入メリットに注目が集まっています。これまで高額で導入の難しかったクラウド型AIも、エッジAIを活用することで、より多くの企業がAIの進化の恩恵を受けることが可能になります。

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エッジAIにまつわる誤解

よくある誤解の一つに、インターネットに接続せずにすべての処理をエッジで完結する仕組みと理解されることがありますが、これは正しくありません。
エッジAIの「エッジ」は、インターネットの端(エッジ)を意味しており、インターネットを前提とした技術です。オフラインの状況は想定されておらず、多数の端末でクラウドサーバーに集中した負荷を分散させることで、プライバシー保護やデータ通信のコスト、遅延の解消といった課題を同時に解決できるのです。これがエッジAIの本質です。

エッジAIのユースケース

概念の話だけではイメージしにくいと思いますので、ここでエッジAIの具体的なユースケースをいくつかご紹介します。さまざまな分野でDXの推進が叫ばれている中、デジタル化が難しい店舗や工場などリアル空間を持つ業界では、エッジAIがDX推進の鍵となっています。

―エッジAIを活用したDX事例①「小売業」

小売業では、エッジAI搭載カメラが店頭に来店する顧客の年代や性別を識別し、データ化することが可能です。従来取得できるデータは購買に至ったお客様や、会員などに限られ、それ以外にどのような客層が来店しているのかを計測することが困難でした。各種キャンペーンや、店内施策の効果を測ることが難しく、PDCAを回すことが難しいという課題がありました。

集計されたデータは、細かく改善を重ねることに役立つ上、新たなビジネスチャンスの発見につながります。例えば、どのような商品を並べるべきか、どの客層をターゲットにするべきかといった具体的な戦略が立てられるようになります。これらの情報は従来の売上データでは捉えられなかったものですが、エッジAIカメラによって初めて明らかになるのです。

エッジAIの導入には他にも多くの利点があります。従来型のクラウド型AIでは、顧客の顔が映ったデータがそのまま送信されることで、プライバシー保護やセキュリティリスクの面で問題がありました。また、撮影した動画をすべてクラウドに送って分析するため、莫大なデータ容量が必要でした。

しかし、エッジAI搭載カメラは、プライバシー保護の処理をカメラ上で行い、必要なデータだけをクラウドに送信できます。これにより、データ通信量が大幅に削減され、クラウド型AIに比べてコストの削減を実現しつつ、同時にプライバシー保護も達成します。

このようにエッジAIカメラは単にデータを得るだけでなく、効率的かつ費用対効果の高いデータ処理を実現する技術として小売業において実用化が進んでいます。

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―エッジAIを活用したDX事例②「製造業」

Ideinは、製造業において新人と熟練者の違いを発見し、新人技能員の教育を補助するAIシステムに技術協力しています。カメラに搭載されたAIが新人技能員を撮影し、事前に学習した熟練技能員の動きとの違いを把握し、可視化します。

新人技能員は作業の合間にビデオを確認してフィードバックを受けることで、自分の動作の改善点を把握できます。このAIシステムを利用することで、通常の倍の速度で技術を習得することが目指されています。

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もう一つ、製造業で注目を集めているのは、プラントでのAI技術の活用です。カーボンニュートラルの観点で、プラントから排出されるCO2の削減が求められています。従来は熟練運転員が必要だった制御の難しい箇所でも、AIを搭載したエッジコントローラーを導入することで、人手に頼らずに運転効率を向上させることができます。エッジAIをさまざまな分野や用途で活用することで、地球環境への負荷を最小限に抑えながら産業を発展させることが期待されています。

―エッジAIを活用したDX事例③「サービス業」

サービス業では、リアル店舗におけるAIマイクの活用が進んでいます。電話窓口やコールセンターでは顧客とオペレーターの会話内容が録音されるのが一般的ですが、実店舗の接客はこれまでブラックボックスのままでした。

AIを搭載したマイクを導入することで、従業員は顧客からの理不尽な要求、いわゆるカスタマーハラスメントを録音し、データとして残すことができます。これにより、クレーム対応にあたる従業員の負担軽減や離職防止にもつながります。

AIが顧客対応の記録を自動的に作成するため、従業員が一から書類を作成する手間が省け、本来の業務に専念する時間が生まれます。また、記録されたデータをもとに接客の改善点を見つけ出し、より良いサービスを提供するためのトレーニングにも活用されています。

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IdeinのAIマイクソリューション「Phonoscape」サービス概要

―エッジAIを活用したDX事例④「地域活性化」

地域活性化の分野でもエッジAIの活用が進んでいます。Ideinが技術協力した愛媛県今治銀座商店街では、エッジAIカメラを用いて人流の変化を比較・検証しました。ターゲットの異なるイベントを開催し、来訪者の属性や、イベントによる集客効果を調査しました。その結果、意図したターゲット層を効果的に集客できることが明らかになり、商店街活性化に向けた戦略立案の基礎データとして活用が期待されています。

エッジAIの導入により、観光や地域活性化のために必要なデータを得ることで、経済的な効果を生み出すことができます。全国の観光地やシャッター街でエッジAIの活用が進むことで、地域活性化の新たなモデルケースが生まれるでしょう。

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AIカメラによる人流計測の様子

―エッジAIを活用したDX事例⑤「鉄道業」

鉄道業では、エッジAIの導入により運行の効率化や安全性の向上が目指されています。例えば、エッジAI搭載のカメラを活用することで、駅や車両の乗降人数を正確に把握できるため、効率的なダイヤを策定することが可能です。

また、視覚障害により白杖を持つ人や車椅子利用者が駅に到着した際に、エッジAIカメラが認識し、駅員に速やかに情報を伝えることで、適切なサポートが提供できます。

さらに、沿線の設備にもエッジAIを導入することで、これまで人力で行っていた保守点検作業を自動化できます。これにより労働人口の減少に対応しつつ、効率的なインフラ管理が可能となります。老朽化した設備のメンテナンスも、エッジAIによるモニタリングで予防保全が強化されるため、安全性の向上も期待できます。

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―エッジAIとLLMがもたらすPoCの新しいスタンダード

Ideinが創業した当時、国内外を見渡してもエッジAIのプラットフォーマーは存在していませんでした。そのため、企業がエッジAIを活用してビジネスを拡大させる環境が整っておらず、社会実装も思うように進んでいませんでした。そこでIdeinは業界に先駆けてActcastのプラットフォーム上で多様なエッジAIソリューションを提供し、小売業を筆頭に様々な分野で社会実装を推進して、経験と実績を積み重ねてきました。

現在、エッジAIの活用領域はこれまでにご紹介した業界に限らず、医療や介護、ヘルスケア、セキュリティなどにも広がっています。

そして、LLM(大規模言語モデル)の登場によって、エッジAIの活用範囲が広がり、エッジAIを組み入れた事業を立ち上げるためのコスト低減と時間短縮が同時に実現できるようになっています。これにより、エッジAIの導入がさらに広がるだけでなく、まだエッジAIを導入していない業界でもその活用が進むことが期待されています。

Ideinは、2024年5月にエッジAIプラットフォーム「Actcast」とマルチモーダルLLM(Multimodal Large Language Models/マルチモーダル大規模言語モデル)を連携させた画像解析ソリューション「LLM App on Actcast」の提供を開始しました。

これまでエッジAI導入のハードルとなっていたPoC(Proof of Concept/実証実験)を、AIアプリなどのソフトウェアを開発することなく実施できるようになりました。また、プロンプトエンジニアリングによる操作で非エンジニアでも円滑に検証を行えるようになり、エッジAIの活用の裾野が広がっています。

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「LLM App on Actcast」がもたらすPoC革命

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店内状況を把握するためのプロンプトのイメージ

LLMの認識・判断力向上が進んでおり、人間と同じようなタスクを遂行できるようになりつつあります。プロンプトを入力するだけで、高性能なAIを誰でも使える時代が到来しています。IdeinのActcastに載せて現場で動かせば、これまで不可能とされてきた業務も次々と現実化していくでしょう。

日本の国際競争力強化に不可欠なエッジAI、そのインフラを「Actcast」が担う

日本政府は現在、AIと半導体技術を基盤とした経済成長を通じて国際競争力の強化を目指しています。クラウドを利用した生成AIと、自動車などのエッジ領域でのAI機能の搭載により、先端半導体の産業基盤の確保と生成AIの開発力向上が重要となります。これらが相互に円滑に連携するエコシステムを構築できれば、人口減少や少子高齢化による人手不足などの社会課題の解決につながり、ひいては日本の国際競争力を高めることにもつながります。

このときAI開発企業がプラットフォーム(PF)からソフトウェア(SW)まで全てを自社で開発することは、スマートフォンのOSからアプリまで自社で一から作るようなものであり、合理的ではありません。

企業が自社の強みを最大限に活かすためには、垂直統合型で各々の得意分野に集中して取り組むことが重要です。これはゲーム業界やクラウドサービスにも当てはまります。Ideinがハードウェアからソフトウェアまでの全レイヤーに共通するプラットフォーム「Actcast」の提供を開始したのは2020年でした。

エッジAIプラットフォームにおいて重要なのは、中立性です。中立的でないプラットフォームはシェアを広げることが難しいのです。特定のハードウェアベンダーがプラットフォームを作っても、そのベンダーの製品しか利用できないからです。

Ideinは、2015年の創業当初から中立的なプラットフォームの開発を目指し、エッジAIのプラットフォーム「Actcast」を十数億円の開発費用をかけて開発してきました。現在も最新の技術を取り入れて進化し続けています。

Actcastを活用することで、企業はエッジAI導入に伴う共通の課題や手間をIdeinに任せ、自社の強みに集中することができます。Actcastのように中立性が高く、自由度の高いプラットフォームを利用することで、エッジAIの導入がより簡単かつ効果的に行えるようになります。

日本の先端半導体の産業基盤の確保と、生成AIの開発力向上が相互に機能するエコシステム実現するには、エッジAI分野で各企業が得意分野に集中し、中立的なプラットフォームを活用することが重要となります。Ideinは今後も中立的な立場のプラットフォーマーとして、より多くのパートナーと協業し、エッジAIの社会実装を推進し、日本の国際競争力強化に貢献していきます。

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お問い合わせ先

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