Ideinが5年の歳月をかけて開発したエッジAI/IoTプラットフォーム「Actcast」(読み:アクトキャスト)は2020年1月にローンチしました。その後、数千店舗を超える規模での大型商用サービスのインフラで活用頂いたり、160社を超えるパートナー企業にご参画頂くなど、事業として大きく成長しました。
AIカメラやAIマイクなどのエッジAIデバイスを活用したリアル空間の可視化と、それによるDXの推進は近年高い注目を集めていますが、お客様との対話の中でも確かに普及フェーズに入ってきたと実感しています。このテクノロジーの社会実装をさらに推し進め、様々な現場に変革を起こすために、私たちIdeinが鍵になると考えているのが「パートナーサクセス」です。つまり、当社単独ではなくパートナー企業と連携し、共に事業を創り上げる取り組みを推進し、エコシステムを形成することが重要と考えています。
今回のブログでは、これまでの取り組みで得られた知見を踏まえつつ、エッジAIの社会実装を進めるための方向性と、パートナーとの連携の重要性やこの先目指す姿についてお伝えします。
目次
「エッジAI」の社会実装が難しい理由
近年のAI技術の急速な進展により、映像や音声等のデータを解析して価値のある情報を抽出し活用することが、様々な社会課題に対する有効な解決策になってきています。これによりAIを搭載したカメラ・マイク・センサー等を活用して人の目や耳を代替し、現場のDXを進めるソリューションが各業界において次々と誕生しています。
一方で、プライバシーや通信・サーバーコストが大きな課題となっています。そのような背景から、データを極力現場に置いてあるデバイスの中(エッジデバイス)で処理し、生の映像や音声ではなく、AIで解析済みの必要最小限のデータのみをクラウドに収集する「エッジAI」というテクノロジーに対する社会的なニーズが高まっています。
(📝ご参考:当社ブログ記事『今さら聞けない ~「エッジAI」とは?~』)
生の映像や音声の保管が必要な防犯などの分野は別として、AI処理後の数値等のデータのみが必要な用途において、わざわざ巨大な映像・音声データを一箇所に通信して集めてから処理する方式には、AI処理に必要な通信と計算のバランスを考えると合理性がありません。無駄に通信のための電力とお金を消費しプライバシーリスクを高めるだけです。また、最近はデータセンターが逼迫していることもあり、事業継続・スケーラビリティにも問題が生じる可能性があります。このことから、エッジAIを活用してコストを削減し無用なデータ収集を減らすアーキテクチャへの移行は不可欠と言えます。
とは言っても、エッジAI型のシステムを構築することは極めて困難です。まずAIの処理には高性能なコンピュータが必要となりますが、様々な現場(例えば店舗)に高額なサーバーを設置するのは初期コストや維持コストなどの面でハードルが高く、可能な限り安価・小型なデバイスで、可能な限り良いAIを動作させる技術が必要となります。
また、様々な場所に設置された大量のデバイスの遠隔運用の仕組みが必要になります。AIは放っておくと精度が下がる(実際の現場の状況に変化が起きると、学習に使用したデータとの乖離が広がる)ため、継続的なメンテナンスが必要です。さらに、次々と登場する新しい技術・需要に対応し、陳腐化を防ぐための遠隔アップデートの仕組みも必要です。
多数のデバイスにソフトウェアをデプロイ(配備)するためのソフトウェアは世の中に数多存在するため、「そんなの簡単では?」と思われる方もいるかもしれませんが、保護されたデータセンターに置かれたサーバーや手元ですぐに触れるPC・スマホとは事情が異なります。様々な現場にデバイスを置くということは、突然電源がOFFになる・通信が不安定になる・ほこり等が堆積し熱暴走する・物理故障するなど、データセンターやサーバールーム内で保護されたサーバーでは通常起こらない事象に高頻度で晒されますし、何か問題が起きた時に現場にすぐに駆けつけられる人はいません。また、保護された空間ではない分、セキュリティリスクも高まります。
ソフトウェアエンジニアの方であれば、このようなシステムをゼロから構築する困難さが想像できるかと思います。ちょっとした設定変更ですらデバイスの文鎮化の恐れがあるほか、AIのメンテナンスやセキュリティ対策のために頻繁にアップデートを配信する必要があります。その上で、可能な限りデータを欠損させずにお客様の手元に届けなければならないのです。これらは当社が実際に直面した問題(の一部)ですが、その度に大変な思いをして再発防止のための機能・技術そして組織機能の開発を進めて克服してきました。
「エッジAI」の社会実装に不可欠なこと
Ideinは8年前の創業時、先述したように、当時主流だったクラウド一極集中型のシステムはいずれ限界が来ると予想していました。この予想は現実のものとなり、クラウドから分散型システムに市場のトレンドが移りつつあります。いよいよエッジAIの社会実装が加速するフェーズ――ガートナーのハイプ・サイクルでいえば、「啓発期」を抜けて「生産性の安定期」に突入したと考えています。
歴史を振り返れば、新しいテクノロジーが普及フェーズに入るために「プラットフォーム」の誕生が必要だったケースが多くあります。新しいテクノロジーや機能を担うプラットフォームが誕生し、その上で新しい価値を生み出す商品・サービス群が生まれて世の中に届けられるのです。
ゲーム業界を例に取ると、その昔、スペースインベーダーが流行った頃は、一企業がソフトからゲーム機などのハード、そしてその流通の仕組みまで開発していました。おそらくこの頃、良いアイデアを持っているものの、ハードや仕組みを作れないために開発を諦めていた企業も多いはずです。それが、「ファミコン」というプラットフォームが生まれたことにより、他の多くの企業はゲームソフトに注力すれば良くなり、アイデアの実現に集中できる状況になりました。そうして市場が活性化し、次々と面白いゲームが世に生み出されるようになったのです。
パソコン/OS、スマートフォン、クラウドなどの歴史も同様です。プラットフォームが誕生することによって、参入障壁が下がり、市場が活性化して社会実装が加速するのです。
このようなプラットフォームとソリューションの“役割分担”こそが、今まさに必要なことなのです。エッジAIにおいても前節で説明したように高い参入障壁があります。もしソリューションを開発したい企業が、そのインフラやテクノロジーまで自社で手がける状況が続けば、開発コストが高騰化してしまうか、もしくはプロダクトの品質が下がってしまい、社会の利益になりません。だからこそ、IdeinのエッジAIプラットフォーム「Actcast」が、ファミコンのようなインフラの役割を担うことで、パートナー各社がソリューション開発に注力できる環境を創り出したいと考えています。
この“役割分担”は、当社のビジョン「ソフトウェア化された世界を創る」にも通じます。このビジョンを実現するためには、あらゆる業界のあらゆる現場をデータ化しソフトウェアで処理できることが必要です。当社一社で完結できる事業ではなく、各領域の強みを持つ様々な企業と役割分担することが必須なのです。
役割分担で、各社の強みをどう組み合わせるか?
すでに、Ideinのプラットフォーム上でパートナーがソリューションを開発する“役割分担”の成功事例が生まれています。
その一例が、アイシンが開発したエッジAIカメラ「ai cast(プレスリリース)」です。アイシンには、スマートシティ社会の到来に向けてAIカメラ分野にも取り組まれたい意向がありました。このai castはActcastの強固なインフラを活用して開発いただいたことで、開発開始からわずか約半年という驚異的なスピードで市場に投入することができました。モノづくりのプロであるアイシンと、エッジAIインフラのプロである当社の強みを持ち寄ることで、迅速に高品質な商品を世に出すことが可能になったのです。
直近では、AIスタートアップ・AWLとの業務提携(プレスリリース)も好事例のひとつです。AWLはこれまで、エッジAIのエンジンやアプリケーション、そして裏側のインフラ構築までを自社で行っていました。AWLはリテールDX領域における素晴らしい知見・技術をお持ちの企業です。この提携により、AWLは強みであるAIエンジン・アプリ開発に集中し、当社はインフラに集中することができるようになるため、より良いリテールDXソリューションが次々と生まれるきっかけになると考えています。
実はAWLとIdeinは元々は競合同士でしたが、お互いの強みが異なり、そこにフォーカスしたい意向が両社ともにありました。こうした取り組みも、お互いの強みを活かしたWin-Winの関係が築けるものと考えています。
パートナーが「楽に、速く」世に生み出す仕組みを
冒頭で触れた通り、Ideinは、パートナーとの連携を推進し、エッジAIソリューションを生み出す取り組み「パートナーサクセス」を強化しています。2023年10月にパートナー戦略推進部を発足しパートナー各社との協業を開始しました。
Ideinは引き続きエッジAI分野の先駆者として、社会実装を推進し続け、「ソフトウェア化された世界を創出する」というビジョンの実現を目指します。エッジAIプラットフォーム「Actcast」はこのビジョンの実現のために不可欠なプラットフォームであり、これを基盤にして社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させていきます。
そのための当社の役割は、各業界の知見や要素技術をお持ちのパートナー各社がその強みを活かし、「楽に、速く」ソリューションを生み出すための技術・機能・仕組みを整えることです。パートナー各社の声を聞きながら、クイックな開発・提供を目指す上での妨げがあれば改善し、より「楽に、速く」開発できる環境を整え、パートナーのベネフィットを高めていきます。
先述したゲーム業界の歴史のように、素晴らしいアイデアがあっても、皆が使える“土台”がないと社会実装が進みません。Ideinが目指すのは、「Actcast」がまさしくその土台になることです。社会をより良くする様々なアイデアが「楽に、速く」世の中に出ていく仕組みを、パートナーとともに創っていきたいと考えています。
(本ブログ記事は、代表取締役 / CEOの中村が執筆しました。)
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